闇堕ちしたエリート医師は一途に禁断の果実を希う
   * * *


 茜里第二病院。県の最北端に位置する山の麓一帯を切り開いて建てられた茜里総合病院に付随する特殊な病院である。
 陸奥も古くから存在する地元の大病院の名前は知っていたが、そこがどういった場所かまでは把握していなかった。ただ、同僚の楢篠天の父親、赤根長比斗が現在の病院長として周辺一帯を牛耳っているという話は加藤木羚子から知らされている。

「陸奥先生、そんなに険しい表情しないでくださいよ~。小手鞠ちゃんが怖がってますよぉ」
「怖がってませんっ」

 ぷぅ、と頬を小動物のように膨らませて車椅子の上の小手鞠はふたりを見返す。
 当たり前のように車椅子の運転をしているのは陸奥だ。場所が変わっても彼の運転は丁寧で、悔しいけれど心地よい。
 その横で楽しそうに笑っている加藤木は、新しい環境下で落ち着かない小手鞠と陸奥の反応を面白がっているようだ。

「そう? 陸の孤島みたいに山の中腹に位置する昔ながらの総合病院よ。怪談のひとつやふたつ……」
「加藤木、いい加減にしろ」
「ふふ、冗談だって」
< 158 / 255 >

この作品をシェア

pagetop