闇堕ちしたエリート医師は一途に禁断の果実を希う
「けど、心外ですね。ジユウがおかしくなったのは私のせいじゃないですよ」
「もともと、と言いたいのかしら。おかしいのはコデマリちゃんだけでよかったのに」

 ふふふ、と少女のように微笑む年上の女性を前に、天は訊ねる。

「“諸神”の“女神”の欠けた“器”……雛菊さんは」
「いまのあたくしは菊花。諸見里雛菊は死んだことになっているわ」
「そうでしたね、亜桜菊花さん」

 たんたんと診療を行うように言葉を並べる天にじろりと睨まれても、菊花は動じない。面白がるように彼女に近づき、細い指で顎を掴む。

「な」
「ひづるちゃん」
「……やめてください」
「アカネの家から貴女が出ていったと知ったときは、拍手喝采だったけど。けっきょく情を捨て去ることはできなかったのね。残念だわ」
「き」
「しょせん、あの狸の娘でしかなかったのね。コデマリを生け贄に、すべてをなかったことにしようとして。いけない子」
「じゃあ、どうすればよかったんですか……っ!」

 この土地に脈々と連なる因習は、肌から離れない。“女神”に糾弾されて、天の瞳から光が消える。
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