闇堕ちしたエリート医師は一途に禁断の果実を希う
 あたしは約束の十年を貫けないまま、死んだ。
 そこで一瞬、すべてが途切れた。

 意識も記憶も感情も、ぜんぶがバラバラになった。

 けれども彼は、彼らはつぎはぎして、あたしを不完全ながらも取り戻してしまった。



 そして黄泉還って初めて目の当たりにした、ほんとうの恋。
 届かない月に手を伸ばすような、叶わない、叶えられない恋。
 あまりに痛くて、苦しくて。
 逃げるように、求めてしまったぬくもり。
 それは、十年間好きでいようと想いつづけた彼ではない、別の男性だった。
 不誠実だって、理解していたけれど。


「あなたなしでは生きていけないの」


 その言葉を、ほんとうに捧げなくてはいけない相手が、誰なのかわからないまま。
 かよわき花は散らされ、新たな罪を犯していく。
 恋なんて得体の知れない感情に溺れたくない、けれども身体は心とは裏腹に、意地悪なのにやさしい彼を求めて蜜を溢れさせる。
 このままじゃ壊れてしまう。けれど壊れてしまえばもうなにも怖いものはない。
< 2 / 255 >

この作品をシェア

pagetop