闇堕ちしたエリート医師は一途に禁断の果実を希う
 そのことなら加藤木も調査済みだ。“亜桜雛菊”という名の先の“器”――小手毬を産んで以来、姿を消した偉大なる“女神”の“巫”――彼女は一度、諸見里の家に嫁いだにも関わらず、桜庭雪之丞のもとへと走ったのだ。そのときに産んだ男児を置き去りにして。
 その男児が、分家に引き取られた――諸見里自由だ。
 加藤木は女神に裏切られて没落の道を辿っている諸見里本家からあえて離れた分家に入れられた彼が、亡き祖父にたいそう可愛がられていたという情報を手にしている。“諸神信仰”を幼い頃から肌で感じていた彼は、自分が女神の落とし子であることを知らないまま、成長したのだ。
 けれど、小手毬に出逢ったことで――……

「……ジユウくんは彼女に執着してる」
「実の妹なのに?」
「ええ」

 さらっと問われたことに驚くことなく加藤木は頷く。雨龍は口角を上げる。
 加藤木羚子。地域医療センターから茜里第二病院へ出向を命じられた亜桜小手毬のリハビリ担当医。小手毬の話相手くらいにしか認識していなかった雨龍は、得体のしれない女医の言動を興味深そうに見つめ、ため息をつく。

「――血は争えない、ってか」
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