闇堕ちしたエリート医師は一途に禁断の果実を希う
「そうねえ、亜桜雛菊と桜庭雪之丞も異父姉弟だったみたいだし」
「どこで知った?」
「瀬尾先生が誇らしげに教えてくださったわ。あの宗教家先生は近親婚を賛美してらっしゃるみたいね」
「あの男の妄言に耳を傾けるな。痛い目に合っても知らんぞ」

 瀬尾は赤根一族の四季を統べる“春“の傍系にあたる。“諸神信仰”にも篤く、“女神”を赤根一族の栄華のために留め続ける使命を胸に法律すれすれのことを担っている。次の“器”となる小手毬を処女のまま快楽漬けにしようと画策している不気味な男だ。
 だが、小手毬は彼にされるがままになってはいるが、心は別の場所にあるように感じられる。現に――……

「亜桜小手毬は諸見里自由を求めている。瀬尾や陸奥による医療行為を受け入れてはいるが、彼女がふたりを選ぶことはないだろう」
「医療行為、ね。だから手を出さないの」
「彼女は“器”ではない」
「まだ、でしょう?」
「お前はどう考えている? 彼女は望んでその身をまだ見ぬ男へ捧げようと健気に生きているが、それは彼女の心を殺すことにならないか」
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