闇堕ちしたエリート医師は一途に禁断の果実を希う
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地域医療センターで初めて見た亜桜小手毬は、十八歳には見えないほど幼く、庇護欲をそそる少女だった。
二年近い昏睡状態から目覚めた彼女のリハビリは長期間に及び、加藤木をはじめとした整形外科医、リハビリテーション医、PT(理学療法士)などがつきっきりになって指導した。その結果、杖があれば車椅子から降りて歩くこともできるようになった。
転院が決まってからはしばらく車椅子での移動がメインだったが、いまはなるべく自立歩行したいという本人の希望もあって、加藤木が傍にいるときは杖も持たせず手すりと自分の腕を止まり木にさせている。
「コデマリちゃんは、ここから逃げ出したいと思ったことはないのかしら」
「この状況でですか? 逃げたところで逃げる場所もないのに?」
瀬尾や陸奥の施す医療行為について小手毬は当然のように受け入れている。転院前のような自傷行為を行うこともなく、素直に身を委ねているところを見ると、間違っているとはいえ彼女の安寧を脅かそうとしている自分の方が悪者のように思えてしまう。
「それに、あたしが逃げたところで、別の“器”が神降ろしをすることになる」