闇堕ちしたエリート医師は一途に禁断の果実を希う
「赤根一族がそう簡単に手放すとは思いませんけどねぇ。いまのところ諸見里本家は彼女に興味を抱いていないとはいえ、“器”になる準備が整った彼女のことを知ったら動き出すかもしれません。その前にジユウくんに略奪させればいいだけのことです」
「加藤木、お前……」
「ミチノク先生は彼に託すまで守ってくれれば充分です。これは、わたしのエゴでしかありませんから」

 シワひとつない白衣を着た加藤木は陸奥に確認をした。旧来からこの土地で密かに継承されている“諸神信仰”の歪な輪廻から、次の“器”に選ばれた亜桜小手毬を逃すため。愛するひとのために自死を選ぶことすら厭わなかった彼女を生かした医師たちにできることは、彼女が真の意味で幸せを掴めるよう、掬い上げることだ、と。
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