闇堕ちしたエリート医師は一途に禁断の果実を希う
* * *
――全身麻酔から覚醒した小手毬だったが、彼女は自分のことと、自由に関する記憶を失っていた。
「麻酔の副作用で稀に意識障害を起こすことがある。一時的なものだと思うが、無理に思い出させると頭痛を引き起こす。交通事故の後遺症は寛解しているはずだが……精神的な要因の方がおおきいかもしれないな」
「せいしんてき、よおいん?」
「ああ。頭が痛いとか、そういうことは?」
「ないよ、いまのところは」
冷静に分析する陸奥と、なぜか彼になついている小手毬。
彼女は白衣姿の陸奥を見て「あっ、ミチノク!」と嬉しそうな顔をした。交通事故から覚醒した直後の、どこか幼さの残るたどたどしいしゃべり方をしている。
自由は苛立たしそうにふたりを見つめる。なぜ、小手毬は俺のことを忘れて、陸奥のことを覚えているんだ?
どうしてここにきて、小手毬が自分のこと、俺のこと、約束のことを忘れてしまったんだ?
自由は絶望よりも先に怒りで手が震えていた。
「サダヨシ」
「母さん」
「彼女は生まれ変わったのよ。これから新しい土地で、ふたりで生きていくのでしょう?」
「でも」
自由はこんな結末を望んでいなかった。