闇堕ちしたエリート医師は一途に禁断の果実を希う
 幼い頃から約束をした小手毬と、幸せになるのだと思っていたのに、彼女は記憶を失っている。
 戸惑う自由の姿は、まるで迷子になった子どものようだ。
 陸奥の前でにこにこと会話をする小手毬だったが、自由と視線を会わせ、不安そうに瞳を潤ませた。

「お、覚えてなくて……ごめん、なさい」

 あなたのことを覚えていなくてごめんなさい。そう言って、小手毬は自由の震える手を握る。
 あたたかい、生きている、ぬくもりを持った、手が、自由にふれる。
 自由は彼女に手を取られた瞬間、瞳から涙をこぼしていた。


「お、俺のほうこそごめん。小手毬のせいじゃ、ない……俺は、隣でお前が生きていてくれれば、そ、それだけでいいんだよぉお……っ」


 だから、そばにいて。
 もう、その身体をほかの男にふれさせないで。

 ぐしゃぐしゃに泣きじゃくりながら自由は悲痛な願いを口にする。
 小手毬はうんうん、と頷きながら耳底へ落としていく。
 
「あたし、あなたのそばにいるから。だから、もう、泣かないで……?」




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