闇堕ちしたエリート医師は一途に禁断の果実を希う

   * * *


 時間が経てば記憶が戻ってくる可能性もあると陸奥には言われたが、自由は小手毬を手に入れられた今、そこまで拘る必要はないと、むしろこれは“女神”が最後に与えた加護だとうたうように口にしていた。

「加護というより、試練のような気がするけどな」
「まあまあミチノク先生、あのふたりが幸せならそれでいいんじゃありませんか?」

 医療センターでの勤務に戻ったふたりは忙しい日々を過ごしていくうちに、かつての騒動を忘れていく。
 長いようで短かった患者と過ごした時間を思い出す暇もいつしか失われていく。
 彼女を希いつづけて闇に堕ちた若手医師のことも、まるで夢であったかのようだ。

「――けれど、夢じゃない」

 陸奥は早咲に転院先で亜桜小手毬が死んだことを伝えた。彼はすこしだけ残念そうな顔をしたが、茜里病院で担当医師が自殺した事件を知っているからか、それ以上問い詰めることもなかった。臆病な彼に真実を告げる必要もないだろう。
 彼と結婚した優璃は臨月を迎え、まもなく出産予定日を迎える。性別はまだ教えてくれないそうだ。
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