闇堕ちしたエリート医師は一途に禁断の果実を希う
 産婦人科では何事もなかったかのように楢篠天が、患者たちと向き合っている。赤根雨龍とは交流しているようだが、今後も赤根一族からは距離を置くと言い切っていた。
 加藤木だけは相変わらず陸奥につっかかってくる。小手毬ロスで寂しいのだと冗談めかして口にしていたが、もしかしたら陸奥の気持ちを見越していたのかもしれない。傷の舐めあいを繰り返すうちに、加藤木と陸奥は互いを意識しだしていた。

「ミチノクせんせ、今夜仕事あがったら一緒にごはんしませんかぁ?」
「おごらねーぞ」
「かまいませんよぉ、わたしはただー、先生と一緒に夜を過ごしたいだけですから」
「!?」
「なーんて、ね」

 白衣を蝶の羽のように翻して、加藤木は颯爽と持ち場へ戻っていく。
 そんな彼女の後ろ姿を見送りながら、陸奥は「ばかやろ」と弱々しく呟くのだ。
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