闇堕ちしたエリート医師は一途に禁断の果実を希う

* night of before a firstlove / Makoto Michinoku *

 二年近く植物状態だった亜桜小手毬が意識を回復させたというニュースは瞬く間に病院内へ拡がった。
 彼女の両親は報告を聞いて仕事を放り出して真っ先に駆けつけ、陸奥と早咲に向けて感謝の言葉を述べつづけた。その横で小手毬が久しぶりに見たすこし老けた両親の顔を嬉しそうに眺めていた。
 自由は小手毬の両親に会うことが叶わなかったが、病室で彼女が穏やかな表情をしているのを見て、ずっと心の奥底に沈んでいた重苦しい何かが氷解したのを感じた。

「ジュウ、お、にぃ、ちゃん……」

 病室に入ってきた人物が、自由だと気づいた小手毬は、囁くような声を震わせる。

「小手毬」

 小手毬は食い入るように白衣姿の自由を見つめていた。当然だろう、彼が、無事に医師国家試験を合格したことも、現在この病院で研修医として働いていることも、ずっと眠りつづけていた小手毬は何も知らないのだから。

「おはよう」

 長い夢を見ていたのだろう。それがどんな夢なのか、知りたいような、知りたくないような。
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