闇堕ちしたエリート医師は一途に禁断の果実を希う
 自由の場違いな挨拶を、小手毬は平然と受け入れる。

「おはよ」

 今は夕方だというのに。
 橙色の夕陽が西へ沈んでいこうとしているのに。
 ふたりは互いの顔を見合わせて微笑を浮かべている。


 ……まいったな。
 廊下でふたりの様子を見守る陸奥は、複雑な表情で佇んでいる。
 兄と妹みたいなもの。
 それだけの関係だと思ったのに。
 まるでふたりは恋人同士のようだ。


「……ミチノク?」

 遠くでふたりを見ていた陸奥を目ざとく発見した小手毬が、どうして病室に入ってこないのかと不服そうな顔をしている。

「入ってもいいか」
「どうぞ」

 自由が困ったような陸奥を苦笑しながら受け入れる。ほんとうは小手毬とふたりきりになりたかっただろうなぁと陸奥は申しわけなさそうに入室する。

「ミチノク、ミチノク」

 小手毬は陸奥という言葉の響きを気に入ったのか、何度も呼び捨てる。自由が「先生だろ」と窘めても言うことを聞かない。
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