闇堕ちしたエリート医師は一途に禁断の果実を希う

   * * *


 翌朝、小手毬は再び深い眠りにつくことなく、爽やかな目覚めを迎えた。いい傾向だと早咲は嬉しそうに陸奥の肩を叩く。
 だが、午前中いっぱいかかった精密検査が、彼女の機嫌を悪化させる。

「前頭葉にスパイク波、外傷性癲癇発作を示す異常波が認められてます」
「前頭葉の血流異常について、ほかには?」
「いまのところは」
「……そうか。ありがとう」

 検査技師から手渡された結果を眺め、陸奥は溜め息をつく。

「意識が回復すればめでたしめでたし、なわけないからな」

 無機質な病棟内の廊下を歩きながら、陸奥は車椅子に乗せられた小手毬を見下ろす。

「?」

 現状を理解していないのだろう、小手毬は看護師が付き添う車椅子の上で陸奥が顔をしかめているのを不安そうに眺めている。

「ミチノク、あたし、頭打ったんだよね」
「そうだ」
「だから、痛かったり、重かったり、ぼぉっとしたり、するの?」
「痛むか?」
「いまは、へいき」
「我慢するなよ」
「わかってる」
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