雨宮課長に甘えたい  【コンテスト用】
 アイスコーヒーじゃない。いろんな甘い味がする。
 不味くも美味しくもないこの得体の知れない液体は何?

 視線を向けると雨宮課長が悪戯っ子みたいな笑みを浮かべた。

「アイスコーヒーだと思った?」
「これ何ですか?」
「見せかけアイスコーヒー」
「はあ?」
「面白いだろ」
「面白いって……」

 雨宮課長ってこんな子どもっぽい事する人だったの?

 ぷっ。可笑しい。普段とのギャップがあり過ぎ。厳しい顔で私の企画書のダメ出しをしていた人と同一人物とは思えない。こんな茶目っ気がこの人にあったなんて。

 クスクス笑うと雨宮課長が「やっぱり中島さんは笑顔が似合うね」と優しい笑みを浮かべた。

 ああ、そうか。私を笑わそうとしてこんな事を……。

「一体、何を混ぜたんですか?」
「全部のジュース」と言ってから、雨宮課長も自分のアイスコーヒーに口をつけた。

「うーん、複雑怪奇な味だ」
 雨宮課長が眉を顰めて渋い顔をする。

「それもアイスコーヒーもどきですか?」
「中島さんにだけに出すのはズルイでしょ。同じの二つ作って来たよ」

 公平というか、変な人。
 でも、今夜は映画館で会えたのが雨宮課長で良かった。

 張り詰めていた気持ちが少し和む。笑ったからかな。
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