雨宮課長に甘えたい 【コンテスト用】
「じゃあ、元気で」
身支度を整えた課長が玄関口に立つ。
憎らしい程、グレーのスーツが似合っている。
「会社で会ったら上司と部下ですか?」
「そうだ」
「もう課長はここには来ないんですか?」
「12月までは」
「課長は残酷です。毎日会社で課長と会っても私は何も言えないし、周囲の人たちが課長と佐伯リカコがつき合っているって話をしても私は平気なふりをしなきゃいけない。きっと私、気になって課長と佐伯リカコが出ている週刊誌買っちゃいます。それを見て傷つくとわかっていても……」
考えただけで胸が千切れそう。どう考えても辛い事しかない。一層の事、札幌に飛ばされた方が楽だった。課長の傍にいないで済むから。
でも、課長が恋人役を引き受けた理由はわかる。私を守ってくれる為もあったけど、映画の為だったんだ。『今日子』が公開されている間に妻子ある男とのスキャンダルがあったらイメージが下がる。
世間は不倫には厳しい。下手したら佐伯リカコが芸能界を追放されるかもしれない。そうなったら『今日子』にも傷がつく。うちの会社も、望月先生も、巻き込まれるかもしれない。
課長はいろんな事を考えて自分が犠牲になったんだ。課長ってそういう人だ……。
「雨宮課長、ごめんなさい。私、嫌な女ですね。自分の事ばかりで。課長だって辛いのに」
「奈々ちゃん、本当にごめん。絶対に奈々ちゃんの所に戻ってくるから」
「はい。課長を待っています」
笑顔を向けると、課長が私の首に顔を埋めて、強く抱きしめてくれた。
私も課長の広い背中に腕を回して抱きしめた。
忘れないでおこう。課長に奈々ちゃんと呼ばれた事を。課長の温もりを。
身支度を整えた課長が玄関口に立つ。
憎らしい程、グレーのスーツが似合っている。
「会社で会ったら上司と部下ですか?」
「そうだ」
「もう課長はここには来ないんですか?」
「12月までは」
「課長は残酷です。毎日会社で課長と会っても私は何も言えないし、周囲の人たちが課長と佐伯リカコがつき合っているって話をしても私は平気なふりをしなきゃいけない。きっと私、気になって課長と佐伯リカコが出ている週刊誌買っちゃいます。それを見て傷つくとわかっていても……」
考えただけで胸が千切れそう。どう考えても辛い事しかない。一層の事、札幌に飛ばされた方が楽だった。課長の傍にいないで済むから。
でも、課長が恋人役を引き受けた理由はわかる。私を守ってくれる為もあったけど、映画の為だったんだ。『今日子』が公開されている間に妻子ある男とのスキャンダルがあったらイメージが下がる。
世間は不倫には厳しい。下手したら佐伯リカコが芸能界を追放されるかもしれない。そうなったら『今日子』にも傷がつく。うちの会社も、望月先生も、巻き込まれるかもしれない。
課長はいろんな事を考えて自分が犠牲になったんだ。課長ってそういう人だ……。
「雨宮課長、ごめんなさい。私、嫌な女ですね。自分の事ばかりで。課長だって辛いのに」
「奈々ちゃん、本当にごめん。絶対に奈々ちゃんの所に戻ってくるから」
「はい。課長を待っています」
笑顔を向けると、課長が私の首に顔を埋めて、強く抱きしめてくれた。
私も課長の広い背中に腕を回して抱きしめた。
忘れないでおこう。課長に奈々ちゃんと呼ばれた事を。課長の温もりを。