雨宮課長に甘えたい  【コンテスト用】
 社食中の社員たちの視線を感じる。

「お前、雨宮課長が好きだろ? だから肩を持つんだろ?」
 からかうように男性社員が言った。
 図星を言われて言葉がつまる。

「雨宮課長のスキャンダルに巻き込まれて、みんな迷惑してるんだよ。あんたもさっき言ってたじゃないか、電話が鳴りっぱなしで通常業務にならなくて迷惑だって」

 こいつ私の話、聞いていたのか。

「確かに迷惑な事はあるけど、あなたの言葉は雨宮課長に失礼です! 独身なんだから誰とつき合っていたっていいじゃないですか」
 男性社員がバカにしたような笑みを浮かべる。

「可愛いね。必死になって雨宮課長の事庇ってさ」

 ムカッ。殴ってやる!
 手を振り上げようとした時、男性社員の前に雨宮課長が立った。

「何ですか」
 男性社員が驚いたように自分より背の高い雨宮課長を見上げながら言った。

「僕の事で迷惑をかけて、申し訳ない」
 雨宮課長が深々と頭を下げた。男性社員はギョッとしたような表情を浮かべた。
「い、いえ」
 気まずくなったのか、逃げるように男性社員が立ち去る。
 ゆっくりと頭を上げると今度は私の方にも雨宮課長は頭を下げた。
「中島さんにも迷惑をかけて申し訳ない」
「い、いえ、そんな」
 社員たちが雨宮課長を見ていた。大勢が見ている所で、雨宮課長に頭を下げさせてしまった事が申し訳なくなってくる。
 私のせいだ。私が男性社員に噛み付いたから。
< 112 / 211 >

この作品をシェア

pagetop