雨宮課長に甘えたい  【コンテスト用】
「もう、先生、やめて下さいよ。今日子さんに叱られますよ」
 先生が今日子さんを気にするように私の頭から手を下ろした。

「先生、中島さんをこれ以上、困らせてはいけませんよ」
 今日子さんの言葉に先生が苦笑い。
 二人の仲の良さを感じるやり取りが微笑ましい。

 いいな。今日子さん、先生に愛されていて。

「ところで、あの映画の脚本書いたの、雨宮課長なんですよ」
「佐伯リカコの隣に座っている男か?」
「はい」
 誇らしい気持ちで頷いた。
 映画を褒めてくれた望月先生に拓海さんも才能がある人なんだって知って欲しかった。

「そうか」
 望月先生が急に黙り込む。

「先生、酔ったんですか?」
 黙ったままの先生に訊いた。
「いや」と呟いて、先生は何かを考えているよう。
 一体何を考えているのだろう? 拓海さんが映画の脚本を書いたと言ったら、急に先生の様子が変わった気がする。

「中島さん、先生はこうなっちゃうとどうしようもないのよ。ふぐちり食べましょう」
 今日子さんに言われた。
 今私たちの前には熱々のふぐちり鍋が運ばれて来た。もうコースは最後の方。
 ふぐのプリプリの身が美味しい。締めの雑炊も楽しみ。拓海さんも楽しんでいるかな?
 拓海さんの方を見ると、いつの間にか席にいなかった。隣の佐伯リカコも。
 二人だけでこっそり抜けたような気がして、嫌な予感がする。

「ちょっとお手洗い行ってきます」
 お箸を置いて、今日子さんにことわってから席を立った。
< 137 / 211 >

この作品をシェア

pagetop