雨宮課長に甘えたい  【コンテスト用】
「勝手に出るな」
 電話の奥で焦ったような拓海さんの声がする。
「もしもし」
 拓海さんの声だ。
「奈々ちゃん?」
 あ、ディスプレイに私の名前が出ているから。
「奈々ちゃん?」
 さっきよりも心配そうな声で呼ばれた。
 喉の奥が締め付けられ、心臓がドクドクと嫌な音を立てている。

 まさか昨夜から佐伯リカコと一緒にいたの?
 聞きたいけど、聞いてしまったら怒りを抑えられなくなりそうで、言葉を飲み込んだ。

「お休みの所すみません。特に用事はありません。失礼します」
「待って、奈々ちゃん」
 拓海さんの声がしたけど、プツリと切った。
 すぐにスマホが鳴った。拓海さんの名前が表示されていたけど、出なかった。

 今は話したくない。きっと声を聞いたら怒って責めてしまう。嫉妬深くて嫌な私を見せて、拓海さんの気持ちが離れていくような事はしたくない。

 スマホの電源を切った。
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