雨宮課長に甘えたい  【コンテスト用】
 阿久津はイタリア製のスーツを好み、いつもマフィアファッションだ。
 強面の濃い顔立ちは会社員には見えない。

 片や久保田は目がパッチリとしていて男性アイドルグループにいそうな可愛らしい顔立ち。だからか阿久津に睨まれていると心配になる。

 久保田がこっちに視線を向けてくる。助けて下さいの合図だ。
 私が宣伝部にいるうちは守ってやらなければ。

「阿久津部長。あれとは何ですか?」
 久保田を睨んでいた阿久津の目がギロリとこっちを向く。

「中島、でしゃばるな。俺は久保田に訊いてるんだよ」
「お言葉ですが、まだ私は『ラストヒロイン』の担当者ですから私にも発言権があると思いますが」
「担当者ね」

 バカにしたように阿久津が鼻で笑った。
 自分以外の人間はバカだと思っている態度はいちいち腹が立つ。

 なぜ阿久津が宣伝部の部長で配給プロデューサーまで兼任する権力者になれたのか未だにわからない。
 こんな環境で宣伝部の仕事がうまく行くはずないと思っていたけど、阿久津が配給プロデューサーになってから送り出した映画の興行収入は右肩あがりに上がっている。映画がヒットしてくれるのは嬉しい事だが、阿久津の手柄のように言われるのは悔しい。
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