雨宮課長に甘えたい  【コンテスト用】
 久保田の案内で集中治療室の前まで行くと、廊下の長いすに真っ青な顔をして座っている森さんがいた。

「森さん、中島さんをお連れしました」
 久保田が声をかけ、それから森さんが私に視線を向ける。眼鏡の奥の目と合い、会釈をした。
「申し訳ございません。お休みの所を」
「いえ」
「リカコに中島さんと連絡を取って欲しいと頼まれまして、それで久保田さんにお願いして中島さんに連絡を取ってもらったんです」
「佐伯さんが?」
「あの、雨宮さんと連絡が取れなくて。中島さんだったら雨宮さんと連絡が取れるって、リカコが」

 佐伯リカコは私と拓海さんがつき合っている事を知っているんだ。
 隣に立つ拓海さんはマスクと帽子を取り、森さんに頭を下げた。
「あ、雨宮さん!」
 森さんが眉を上げて拓海さんを見た。
「電話を頂いていたのに、折り返せずすみません。電源を切っていたものですから」
「い、いえ。いつもリカコの急な呼び出しに対応して頂きありがとうございます。昨日は大事な用事があると聞いていたのに、電話してすみませんでした」
 大事な用事って、私との事かな。拓海さん、ホテルを予約していたから。

「佐伯さんの容体は?」
「命に別状はありません。睡眠薬を大量に飲んでいましたが、胃洗浄してもらいましたから大丈夫です。一時間前に意識も戻ってリカコと話しました」
 良かった。意識戻ったんだ。でも、睡眠薬を大量にって、本当に死のうとしたんだ。一体何が佐伯リカコを追い詰めたのだろう?
「しかし、子どもが流れてしまって」

 えっ! 子ども! まさか佐伯リカコのお腹に子どもがいたの! 
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