雨宮課長に甘えたい  【コンテスト用】
 とにかく、リカコに会ってやって下さいと森さんに頼まれた。久保田は空気を読んで廊下で待っていると言い、私も遠慮した方がいいと思ったけど、拓海さんに一緒に来て欲しいと頼まれて、病室に入った。

 ピンク色のカーテンを開けると、水色の病院着姿の佐伯リカコが点滴に繋がれた状態でベッドに寝ていた。血の気のない白い顔は金曜日に会った時とは別人のように憔悴している。いつも自信に満ちて見える佐伯リカコが一回り小さく見えて、胸が痛くなった。

「ごめんなさい」
 拓海さんの顔を見ながら、佐伯リカコが細い声で口にした。

「私、とんでもない事しちゃった。あの人に言われるがまま、薬なんか飲んで……。お腹に赤ちゃんがいたのに」
 細い声に涙が混じる。
「赤ちゃん、流れちゃった……。こうなってみてわかった。私、赤ちゃん産みたかった。バカだった。もっと早く気づけば良かった。せっかく私の所に来てくれた赤ちゃんに可哀そうな事をした。私……」
 わーっと佐伯リカコが泣き崩れる。胸が苦しくなる程の悲しみに満ちた泣き声だった。

 拓海さんが宥めるように佐伯リカコの背中を撫でる。そんな風に拓海さんが寄り添うのが自然で、二人は夫婦だったんだと思い知る。
 拓海さんはいい夫ではなかったと言っていたけど、きっと佐伯リカコと結婚していた間は、彼女が泣く度に今みたいに寄り添っていたのだと思う。
 今も佐伯リカコと拓海さんの間に夫婦の情がある気がして、何だか妬ける。

「拓海、赤ちゃんが、赤ちゃんが……」
 泣きながら佐伯リカコが何度も同じ言葉を繰り返す。
「私、バカだった……。本当にバカな事をした……」
 佐伯リカコが拓海さんにしがみつくようにして泣く。心から悔いている姿に胸が塞がる。

 昨日、拓海さんを彼女の所に行かせていればこんな事にならなかったかもしれない。やっぱり私のせいだ。私が拓海さんを引き留めたせいで流産させてしまったんだ。
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