雨宮課長に甘えたい  【コンテスト用】
「中島さん、コーヒーおごるよ。田中さん、中島さんのお会計はこれで」

 雨宮課長が社員証をバリスタの人に渡した。
 社員証は電子マネーのカードにもなっている。

「い、いえ。そんな、申し訳ないです」
「この間、不味いアイスコーヒーもどきを飲ませたお詫びだから」

 ファミレスでの事が蘇る。今思うと雨宮課長に救われた夜だった。

「でも、後輩の分も買うので」
「二人分でいいよ。えーと、何と何?」
「あの、じゃあ、カフェオレと本日のブレンドで」
「他にテイクアウトでブレンド一つお願いします」

 雨宮課長がバリスタの人に言った。
 テイクアウトのブレンドは雨宮課長の分なのかな。

「ごちそうさまです」
 コーヒーを受け取ってお辞儀をした。

「いえいえ」と少し照れくさそうな笑みを浮かべて雨宮課長が応える。眼鏡の奥の瞳と目が合った。普通だったらすぐに逸らすけど、じっと見てしまう。

「中島さん、見つめすぎ」
 雨宮課長に言われて頬と背中が同時に熱くなる。すみませんと、あたふたしていると「じゃあね」という柔らかい声が下りて来た。

 その後も、テイクアウトのコーヒーを受け取った雨宮課長がカフェバーから立ち去る背中を視線で追いかけた。
 どうした訳か、今週は社内で雨宮課長を見かけると目で追ってしまう。
 そうだ。ブルーベリーマフィンを買って、あとでコーヒーのお礼に総務のオフィスに持って行こう。
 ウキウキとしながらバリスタの人にテイクアウトでブルーベリーマフィンを注文した。
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