雨宮課長に甘えたい  【コンテスト用】
 歓談の時間になった時、望月先生と一緒だった日本映画界を代表する大御所の北山監督が声をかけてくれた。

「中島さん、一押しの映画良かったよ」
 70歳になる北山監督はシルバーヘアが素敵で、穏やかな雰囲気を纏った紳士。カンヌ映画祭で最高の賞、パルムドールを受賞しているのに、偉そうにした感じもなく、謙虚な方だ。

 実は望月先生に「フラワームーンの願い」を教えたのは北山監督だった。その事を望月先生から教えてもらい、望月先生にお願いして会わせてもらった。そして、北山監督に「フラワームーンの願い」を知った切っ掛けを聞くと、驚いた事に拓海さんのお父さんだとわかった。

「先日はありがとうございました。北山監督に誉めて頂けて光栄です」
「まさか、あの映画を今日観られるとは思わなかった。望月くんから僕の見たかった映画を観たって言われた時は悔しくてね」
「じゃあ、監督は今日、初めてご覧に?」
「実はそうなんだ。いい作品だったよ」
 北山監督に喜んでもらえて良かった。
「あの、雨宮さんに直接、感想を伝えてはどうですか?」
「いや、いいよ。彼、忙しそうだし」
 北山監督が照れくさそうな笑みを浮かべる。その表情が拓海さんに似ていて、親子だと感じる。

「ちょっと、待ってて下さい。連れて来ますから。望月先生、北山監督が逃げないように捕まえてて下さい」
「任せろ。しっかり見張ってる」
 望月先生に北山監督を頼んで、拓海さんの方に走った。
 拓海さんに監督の言葉を聞かせたい。お父さんに会わせてあげたい。
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