雨宮課長に甘えたい  【コンテスト用】
 映画の反響が大きかったのか、拓海さんは沢山の人に囲まれていて、その中にはうちの社長や有名な映画プロデューサーまでいて、非常に声をかけづらい。しかし、怯む訳にはいかない。

「雨宮課長!」と声を張り上げた。
 拓海さんの周りで談笑していた人たちの視線が一斉にこちらを向く。

「中島か。大声出すな」
 阿久津に叱られる。

「中島さん、何かあった?」
 拓海さんが聞いてくれる。

「緊急事態です。来て下さい」
「何言ってんだ。中島。雨宮課長は今、忙しいんだ。自分で何とかしろ」
 また阿久津が口を挟んでくる。
「雨宮課長じゃないとダメなんです」
 思い切って、拓海さんの手を取る。
「ご歓談中すみませんが、雨宮課長をお借りします」
 拓海さんの手を引っ張って走る。背中に「中島、こら」という阿久津の声が響いたけど気にしない。

「中島さん、どうしたの?」
 立ち止まると拓海さんが聞いた。
「拓海さんに会わせたい人がいるんです」
「会わせたい人?」
「あちらに」
 北山監督の方を指すと、拓海さんが大きく目を見開いた。
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