雨宮課長に甘えたい  【コンテスト用】
「今夜は素直になれましたか?」
 私の質問に拓海さんが口の端を上げる。

「少しだけ。就職祝いにお袋がくれた腕時計、実は監督からのプレゼントだって初めて聞いた。俺がウエストシネマズにいる事も知っていて、ずっと気にかけてくれていたようだ」
「そうだったんですか」
「俺は不倫の果てに出来たから、望まれた子どもじゃないと思っていたが、俺がお袋の腹に出来た時、監督は産んで欲しいと頼んだそうだ。拓海って名前も監督が付けてくれて、俺が生まれた日、監督はお袋に付き添っていたって。お袋よりも先に俺を胸に抱いたって自慢気に言われた」
 拓海さんの声が僅かに震えていた。

「お袋にも同じ事を言われていたが信じなかった。可哀そうな俺の為に言ってくれたのだと思っていた。でも、違った。お袋が言っていた事は本当だった。俺はちゃんと二人に愛されていたんだ。いらない子どもじゃなかったんだ」
 涙交じりの拓海さんの声を聞きながら、拓海さんの事が愛しくなる。
 愛されていたと、拓海さんが思える日が来て本当に良かった。

「拓海さんが生まれて来て、私は幸せです」
 ぎゅっと拓海さんを抱きしめると、「奈々子」って深い声で呼んでくれた。ちゃん付けじゃない呼び方は愛しているという言葉が含まれている気がして目の奥が熱くなった。
< 202 / 211 >

この作品をシェア

pagetop