雨宮課長に甘えたい  【コンテスト用】
「人事の桜井さんだったね。こんにちは」
 すぐ後ろで雨宮課長の穏やかな声がして、鼓動が速くなる。

「雨宮課長も今からお昼ですか?」
 桃子が話し続ける。
「そうなんだ」
「課長、よかったら一緒にどうですか?」
 桃子が言った。

 えー! なんで誘うの!

「いいの?」
「はい。ねえ、奈々子」
 桃子がこっちを見る。
「あの、はい。雨宮課長、どうぞ」
 そう言うしかなかった。

「中島さん、ありがとう。では、お邪魔します」
 課長が私の右隣に座る。体の右側にどんどん熱が集まって、ドキドキする。

「課長はお蕎麦ですか」
 雨宮課長が置いたトレーの上にはざるそばがあった。

「こう暑いと、さっぱりしたものが欲しくなって」
「今日も30度気温がありますもんね。私も麺が良くて、パスタにしちゃいました」

 桃子と課長の話を聞いてとんかつ定食を食べているのが、恥ずかしくなる。
 宣伝部にいた頃のクセで“かつ”と名の付く食べ物にしてしまった。しかもご飯、特盛だし。

 桃子みたいにカルボナーラとか、もう少し女子っぽいものにすれば良かった。

「奈々子は暑くても食欲衰えないね」
 桃子のいじわる。課長の前でつっこまないでよ。もう、この場から消えたい。
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