雨宮課長に甘えたい  【コンテスト用】
 森さんは佐伯リカコが撮影をしているスタジオに連れて来てくれた。
 ファッション誌のグラビア撮影のようだった。テンポのいい音楽が流れる中、佐伯リカコが次々にポーズをとっていく。

「リカちゃん、いいよ。その表情、ぐっとくるね」
 カメラマンの声に応えるように佐伯リカコが表情を変えていく。

 さすが人気女優。表情が豊かだし、美人だ。スラリとした手足に、小さな顔。くびれたウエストに大きな胸は女性として完璧すぎる。年齢は35歳らしいけど、20代の役だって出来そうな程、若く見える。

 休憩時間になり、リカコさんが控室に引き上げる。森さんに手招きされてその後をついて行った。
 控室のソファに腰を下ろしたリカコさんに森さんが耳打ちする。

 リカコさんが入口の傍に立つ私を見た。

「あなた、私のデビュー作を探しているの?」
「ウエストシネマズの中島と申します。望月先生に頼まれて『フラワームーンの願い』の行方を追っています。ご協力をお願いします」
「つまらない映画よ」
「映画の台本などはございますか? そこからでも情報を追えるのですが」
 台本にはきっとスタッフの名前が書いてある。地道だけど、スタッフに当たればフィルムに辿りつけるかもしれない。

「昔の物は全て処分したの。だから私に聞かれても」
「えっ、デビュー作の台本を捨てたんですか?」
 ありえない。デビュー作の台本は大事にとっておくものだって、私が出会った俳優さんたちはみんな言っていた。

「捨てたわ。いい思い出があまりないのよ。他をあたってちょうだい。私はわからないから」
「何かヒントを頂けないでしょうか。お願い致します」
 必死で頭を下げた。
「しつこいわね」
「お願いします! 離婚している事は決して他言しませんから」
 短いため息をリカコさんがついた。

「ウエストシネマズにいるのなら雨宮拓海って知っている?」
 思いがけない名前に心臓がギュッとなる。

「あなたの探し物の行方は多分、彼が知っているわ。じゃあね」
 リカコさんが控室から出て行った。

 ウエストシネマズの雨宮拓海って、雨宮課長の事だ。
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