雨宮課長に甘えたい  【コンテスト用】
「それで、中島さんの用事って?」
 課長がこっちを見る。
「『フラワームーンの願い』という映画をご存じでしょうか?」
 眼鏡の奥の瞳が驚いたように大きく揺れた。今まで見たどの課長よりも驚いているよう。
「懐かしいタイトルだ。もちろん知っている」

 リカコさんが言っていた通りだった。雨宮課長は映画の事を知っている。
 手がかりを見つけられて嬉しいのに、なんか落ち込む。なんでだろう。

 それから望月先生が探している事、月曜日までに映画のフィルムを見つけなければいけない事、佐伯リカコさんから課長の名前を聞いた事などを話した。

 雨宮課長は真剣な表情で聞いてくれた。

「事情はわかった。一つ確認したい事があるが、もし月曜日まで映画を見つける事ができなかったら、中島さんはどうなるんだ? 阿久津部長に何か言われてない?」
 雨宮課長、鋭い。

「いえ。特には」
 また雨宮課長に守ってもらう訳にはいかない。阿久津に睨まれて雨宮課長の立場が悪くなったりしたら困る。

「なら、良かった」
 雨宮課長がほっとしたように息をついた。
 嘘をついた事が心苦しい。
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