雨宮課長に甘えたい  【コンテスト用】
 そうだ、スマホ。課長と連絡先を交換したんだ。
 スマホを取り出して雨宮課長の名前を表示する。コール音が鳴って、留守電に切り替わる。

 もう一度、電話する。課長、スマホに気づいて。
 次も出ない。私が迷子になった事に気づいてないの? どうしよう。こんな所で時間を取っている場合じゃないのに。

 私、あんな夢見て浮かれていた。月曜日までに映画を見つけられなかったら、私も久保田も札幌に飛ばされる。久保田の運命も背負っているのに、何やっているんだろう。

 落ち込んでいる場合じゃない。雨宮課長を追いかけないと。確かこの後はレンタカーを借りるって言っていた。レンタカーのお店は……。

「中島さん!」
 スマホを見ていたら、肩を掴まれた。
「雨宮課長……」
「ごめん。歩くの早かったよな」
 心配そうな雨宮課長の顔を見たら、小さな子供みたいに泣きそうになった。
 迷子になって、泣くとかありえないって思うけど、少し涙ぐんだ。なぜか雨宮課長を目の前にすると気持ちが緩んでしまう。どうしてなんだろう。

「私の方こそ、すみません」
「時間があまりないから、つい早足になって」
 そう言って雨宮課長が私の前に右手を差し出した。
 
 うん? 握手? 手を出すと雨宮課長が握ってくれる。

「迷子防止」
 キュン。雨宮課長が手をつないで歩いてくれる。
 都合が良過ぎる展開に一瞬、夢かと思ったけど、夢じゃなかった。
< 64 / 211 >

この作品をシェア

pagetop