雨宮課長に甘えたい  【コンテスト用】
「大学生の時にちょっとね。それでシナリオコンクールに応募したら賞を頂いて。ありがたい事に映画化もされた」
「知らなかったです! 雨宮課長の作品だったなんて!」
 課長の才能を知って胸がドキドキする。

「中島さんから映画のタイトルを聞いた時は恥ずかしくて死にそうになったよ」
 全然そんな風に見えなかった。

「じゃあ、映画を通じて佐伯リカコさんと出会ったんですか?」
「うん、まあ」
 そっか。それでリカコさんは雨宮課長の名前を出したんだ。それならそうとリカコさん、言ってくれればいいのに。課長と深い関係にあったんじゃないかと心配したじゃない。でも……。

 リカコさん、いい思い出がないと言っていたけど、映画の撮影で何かあったのかな? それにプロフィールに載せていないのも変。恋人役って言ったら、ヒロインだし。プロフィールに載せていいと思うけど。

「それで映画が完成した時に撮影舞台となった映画館にもフィルムを納めさせてもらったんだ。今残るのはそこに納めたフィルムだけだと思う。制作会社も配給元も倒産してしまったから」

 雨宮課長の横顔が寂しそう。
 制作会社も配給元もなくなったことは課長にとって悲しい事だったんだろうな。

「映画館でフィルム取っておいてくれて良かったですね」
 もう少し気のきいた事を言いたかったけど、ありきたりな事しか言えない自分が情けない。
「そうだね」と穏やかに微笑んだ課長の横顔がやっぱり寂しそう。
 課長にとって今、「フラワームーンの願い」と関わる事はいい事だったんだろうか? それとも過去の傷を掘り起こすような悪い事だったんだろうか? 今更だけど、課長の事が心配になった。
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