雨宮課長に甘えたい  【コンテスト用】
 課長は眼鏡を外して眠っていた。
 素顔の課長を見たのは初めて。眠っている顔も綺麗。

「私の方こそ、すみません」
 近くに腰を下ろして、課長の寝顔に向かって口にした。
「課長に八つ当たりしました。課長は悪くありません。バーに行くと決めたのは私です。軽はずみな行動でした。課長が怒るのも当然です。でも、助けて頂きありがとうございます。きっと私の声が聞えたんですよね。課長が来てくれて嬉しかったです」

 課長の寝顔を見ながら好きが溢れる。
 初めて課長の事を好きだと気づいた日からそんなに経っていないのに、その時よりも今の好きの方が大きい。毎日、課長への好きが重なっていく。

 浴衣越しの広い課長の背中を抱きしめる。課長の温もりと、甘い匂いがする。
 好きな人の匂いだと思ったら、さらに胸が締め付けられる。

「課長が好きです」
 溢れる気持ちが声になった。

「好きです」
 好きで好きで胸が苦しい。課長に叱られても、理不尽な事を言われても、素っ気ない態度を取られても好き。こんなに人を好きになったのは初めて。
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