雨宮課長に甘えたい  【コンテスト用】
 私の名を口にした後、課長は深いため息をつき、考えるように眼鏡を外して頭を抱えた。
 これはなかった事にして欲しいというパターン? 私の想いに応えてくれたんじゃないの?

「後悔していますか?」
 震える声で聞くと、顔を上げた課長が私の頭を撫でた。

「してないよ。だけど、中島さんに言わなければいけない事が俺にはあるんだ」
 言わなければいけない事? まさか課長、結婚しているとか? 奥さんがいるとか?

 でも、課長は一人暮らしだって言っていた。課長のマンションだって、課長以外の気配はなかった。

「課長は結婚しているんですか?」
 怖かったけど、聞いた。
 課長が苦笑いを浮かべる。

「結婚していたら、中島さんと二人だけで仙台までは来ないよ」
「じゃあ、何ですか?」
 課長が小さく息をついた。

「不安にさせる事を言ってごめん。東京に帰ったらちゃんと話すから」
 そう言って、課長は眼鏡をかけると車を走らせた。

 聞きたい事は沢山あったけど、映画のフィルムを望月先生の所に届け終わるまでは、これ以上、聞いてはいけない気がした。とにかく今は、仕事をしよう。
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