雨宮課長に甘えたい  【コンテスト用】
「映画のフィルムって『フラワームーンの願い』ですか? 今の男が持っていったんですか?」
 私の問いかけに藤原さんが頷いた。
 成瀬君を追いかけなきゃ。

「中島さん、行こう」
 雨宮課長がそう言った時、苦しそうに藤原さんが胸を押さえ、床に崩れる。

「藤原さん! しっかり!」
 雨宮課長が藤原さんの身体を支える。

「救急車、呼ばないと」
 スマホを取り出そうとしたら、「中島さんは映画のフィルムを追いかけなさい」と、課長に言われた。

「でも」
「中島さん、車の運転は?」
「できます」
 コンパクトカーの電子キーを課長がこっちに投げ、それを受け取る。

「彼はきっと仙台駅から新幹線に乗るから。今ならまだ間に合う」
「だけど、藤原さんが」
「藤原さんは俺が救急車呼ぶから」
 救急車を呼ぶよりも、車で運んだ方がきっと早い。

「雨宮課長、フィルムよりも藤原さんです。車で運びましょう」
「しかし」
「人命優先です!!」

 私の叫び声に眼鏡の奥の瞳が見開かれた。
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