雨宮課長に甘えたい  【コンテスト用】
「もう、中島さん……奈々子は泣き虫なんだな。ほら、そろそろ泣き止もうか。一時間近く経つよ」
 ソファに座って私を抱きしめる課長がティッシュで涙を拭いてくれる。
 今、課長、奈々子ってさり気なく呼び方変えてくれた。

 えーん。嬉しいよ。

「奈々子、奈々ちゃん、泣き止もうね」
 今度は奈々ちゃん。嬉し過ぎる。
「奈々ちゃん、落ち着こうね」
 課長が背中を撫でてくれる。

「す、すみません」
「奈々ちゃん、何か飲む?」
 優しい声で小さな女の子に言うように訊かれて、胸にキュンとくる。
 甘えるように頷くと、課長がソファから立ち上がる。

 自分で取りに行くべき所だけど、ひたすら課長に甘えたい。なぜか課長はそういう気にさせる。

「奈々ちゃん、冷蔵庫、開けていい?」
「はい。あの、紙パックのオレンジジュースがあります」
「わかった。オレンジジュースだね」
 課長が、キッチンコーナーの冷蔵庫前に立つ。

「おっ、ネギと卵があるな。ご飯もレトルトのが」
 冷蔵庫周辺の食品を課長が物色しているよう。

「奈々ちゃん、お腹すいていない?」
 もう七時半。確かにお腹すいた。

「何か食べに行きますか?」
「奈々ちゃんの可愛い泣き顔は俺だけのものにしたいから、今日は外食はやめておこう」

 可愛い泣き顔? 俺だけのもの?
 なんか課長の言葉、私の事が好きみたいな感じがして甘い。課長って甘い事を言う人だったの?

 きょとんとしていると、課長が「チャーハンでいい?」と長ネギを持ったままこっちを見た。
 キュン。長ネギを持った姿も絵になる。
< 98 / 211 >

この作品をシェア

pagetop