雨宮課長に甘えたい  【コンテスト用】
 上着を脱いで、ネクタイを解いて、ワイシャツの袖を肘まで捲り上げた課長がうちのキッチンに立っている。ワイシャツだけの背中がカッコイイ。課長が私の部屋にいるなんて夢のよう。

「奈々ちゃん、腕時計取って」
 シンクの方を向いていた課長がこっちを向く。
「あ、はい」
 課長の横に立って右手首の高そうな腕時計を外した。
 いつも課長がしている腕時計。まさか課長の腕から外す事を許される日が来るなんて。特別な距離感を感じて嬉しい。

「課長。他にお手伝いする事は?」
「奈々ちゃん、大丈夫だよ」
 すっかり奈々ちゃん呼びが課長の中で定着している。奈々ちゃんて呼ばれる度に甘い気持ちになる。

 普段の課長からギャップがありすぎる。私を見つめる瞳も、私の名を呼ぶ声も、頭を撫でる仕草も、抱きしめる腕も、みんな甘い。私を甘やかす事を楽しんでいるよう。

「あの、課長にくっついてもいいですか?」
 こんな事言うなんて、私も普段のキャラと違う。
 人一倍、甘えるのが下手なのに、課長には甘えたくなる。

「奈々ちゃんはいつも可愛い事を言うな。いいよ。好きにして」
 クスッと課長が笑う。

「では、失礼します」
 キッチンに向かう課長の背中に抱き着くと、引き締まった身体と、甘い課長の匂いと、温い課長の体温を感じる。とっても落ち着く。ずっと課長にくっついていたい。
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