わけあり男装近衛騎士ですが、どうやら腹黒王太子の初恋を奪ってしまったようです~悪役令嬢回避のつもりが、いつの間にか外堀を埋められていた件について~
 シュテファンの婚約者選びの場であるため、一人一人、彼の前で挨拶をする流れになっていた。父親と共にシュテファンに挨拶をし、残りの時間は壁の花になるつもりだった。社交の場にケイトとして出ていない彼女は、顔見知りの令嬢などいないのだ。
 ケビンとしてであれば、何某の妹を何人かは知っている。父親は、見知った顔を見つけると、そちらに挨拶へ向かう。目がぎらぎらと輝いている令嬢は、我こそはとシュテファンにぐいぐいと迫っていた。
 そんな様子を横目に、給仕から受け取った飲み物を片手に持ちながら、壁の花となる。いわゆる人間観察だ。シュテファンの敵になりそうな家柄はどこだろうか。むしろ彼に相応しい相手はどこの令嬢だろうか。
 そういったことを考えながら、視線を張り巡らせていると、意外と楽しめる。
『ケイト・トレイシー嬢。どうか私と一曲踊っていただけないだろうか』
 突然名を呼ばれ、ダンスに誘われた。今日のこの日、誘われる相手としたら一人しか心当たりはいない。むしろ、そのための夜会なのだから。
 いつの間にかすぐ側に父親がきており、黙ってケイトのグラスを取り上げた。無言の圧力である。何より、文官として王城に務めている父親にとって、目の前の男は仕えるべき主の一人でもあった。
『シュテファン王子殿下……』
 驚きのあまり、ぽろっと零れた。
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