わけあり男装近衛騎士ですが、どうやら腹黒王太子の初恋を奪ってしまったようです~悪役令嬢回避のつもりが、いつの間にか外堀を埋められていた件について~
「ケイト・トレイシーを婚約者に望むと……」
 顔を伏せたまま、父親は届いた書簡をつつっと机の上を滑らせるようにして、向か側に立っているケイトの前に置いた。
 たいてい、嫌な予感は当たってしまうから恐ろしい。
 びくびくとしながら、書簡を手にする。パサっと広げると、細やかな字が目に飛び込んだ。隣のケビンも覗き込んでくる。
「ほ、本当だ……」
 獣を思わせるような声で、ケビンが呟いた。
「お、お断りを……」
 ケイトが言いかけると。
「できるわけないだろう」
 父親が顔をあげると、満面の笑みを浮かべている。
「よくやった、ケイト。これで君も未来の王太子妃。今までケビンの身代わりとして、女性らしいことから遠ざけていたから、心配していたんだ」
「え、ええ。お父様はこの婚約に反対ではないのですか?」
「なぜ反対する必要がある? 相手はシュテファン王子殿下。これから王太子になられるかもしれないお方だ。不満があるか? ないよな?」
< 14 / 26 >

この作品をシェア

pagetop