わけあり男装近衛騎士ですが、どうやら腹黒王太子の初恋を奪ってしまったようです~悪役令嬢回避のつもりが、いつの間にか外堀を埋められていた件について~
『だから、僕がケイトとして夜会に出席することはできない……』
『そうね……。今のケビンがドレスを着たら……。え、と……、うん。見たくない』
『ケイト、今までありがとう。ケイトのおかげで、僕もすっかりと元気になったよ』
『うん、元気になりすぎたと思う』
『さあさあ、時間はないわよ。ケイト』
 ケビンと共に別邸へやってきた母親は、なぜか生き生きとしていた。
『あの第二王子殿下の婚約者選びでしょう? 気合をいれていかなきゃ』
『え? 欠席ではないの? ケビンが出れないのだから』
『何を言っているの。夜会には、各家の年頃の娘は全員出席なのよ。流行り病などの特別な理由がないかぎり、欠席は許されないわ』
『じゃ、流行り病ってことで……』
『あきらめなさい』
 母親がピシャリと口にした。
『やっと、本来の姿に戻れるのです。私たちが、どれだけあなたたちに心を痛めていたか……』
『ごめん、母さん、ケイト。僕がひ弱だったばかりに……』
『いいのよ、ケビン。丈夫に産んであげられなくてごめんなさいね……』
 母親はケビンを抱きしめて、よしよしと頭を撫でているが、大男が小柄な女性に頭を撫でられている光景は、どことなく不気味である。
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