開けずの手紙2ーデジタルー

第2章/その笑み、闇の彼方から…

進化/その1


月曜日の朝、奈緒子は早速、職員室の隅で手嶋と”例の件”を確認し合っていた。
それは三浦美咲のあの時のように、周囲から目立たず小声で。

「…そうですか、鷹山さんたちが福岡へ…」

「ええ。あさってには国上さんと一緒に、久留米でその女子高校生と面会するそうです」

「野坂先生…。”この関連”は、今まで自分が関わってきたいきさつから、そっぽを向けません。今後、九州の進捗等は僕にも入れてくれますか?」

「もちろんです。我々がやり遂げたことの延長ですものね。これを対岸の火事で他人事にしたって、またいつ私たちの周辺で”あれ”が起こるかわかりませんし」

「おっしゃる通りだ。三浦を救ったこと、その体験を無にしないためにも、僕らは教師とは言え、できる範囲での尽力はするべきだと思います…」

「先生…」

奈緒子は感激していた。
他ならぬ、死んだ父の最も心を通わせていた教師仲間、和田シンゴが高校時代物理を教えていた一人の生徒…。
その生徒たる手嶋久人が、今目の前に立っている同僚教師なのだ。

その彼による今の言葉は、奈緒子にとって、自らの教師としての理念を貫通するに余りある共感として伝わったのだ。


***


そしてこの後、奈緒子は”あのこと”を手嶋に持ち掛けた。

鬼島の呪いと対峙していく上で、同志にたがわないこの手嶋には最初に了解を得るべきだと、彼女は考え至っていたの。

「なるほど…、この学校に北九州とそんな接点を持つ生徒が…」

「確か1年B組の海老野さんって小柄な子でした」

「ああ…、海老野なら、僕の受持ちの隣のクラスですね。素直ないい生徒ですよ。野坂先生であれば、”この件”で接触しても問題は特段ないかと思います」

「そうですか…。和田先生には、福岡に住んでるいという、彼女のいとこから聞き込みする件では同意をもらってるんですが、当校の生徒との”そういうこと”での接触なんで、手嶋先生にもあらかじめ了解をいただければと思いまして…」

「はい。では、了解ですので。先生…、よろしくお願いします」

手嶋はさわやかな笑顔でそう答えていた。

”よし…、今日にも海老野さんに用件を持ち込もう。そして、福岡に住んでるいとこの子から直に話を聞く…”

奈緒子はそう胸の中で自分に言い聞かせるのだった。






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