【短編集】片想い、余命2日
 花村に言われて、俺は自分が傷ついていることを知った。


 ただ純粋に、由依といられない未来を想像しただけ。


 その未来が、嫌だと思った。


 これがなにを意味するのかわからないほど、俺はバカじゃない。


「ちょっと、人の話、聞いてる?」
「ごめん、花村。俺、由依と関わらないってのは、ムリだ」


 はっきりと言うと、花村は俺の胸倉を掴んだ。

 花村が素直に引き下がるとは思っていなかったが、ここまで過激な反応をされるとは予測していなかった。


 幸い、教室にはもう誰もいなかったから、変な騒ぎにはならずに済みそうだ。


 しかしながら、花村は俺を睨みつけるばかりで、なにも言ってこない。

 いや、言えないのかもしれない。


 俺の服を掴む拳は震え、言葉を噛み殺しているように見える。


「深優、なにしてるの……?」


 その声は、ドア付近から聞こえた。

 由依だ。


 由依の姿を見て、花村の手から力が抜ける。


 だが、優しく離す、なんてことはしてくれず、身体を押されるように離され、俺は背もたれで軽く背中を打つ。


 花村は由依に背を向けて座り直す。

 高い位置で結んでいる長い黒髪が横顔を隠すが、隙間から見える瞳から、後悔の色が伺える。
< 10 / 39 >

この作品をシェア

pagetop