【短編集】片想い、余命2日
 でも、壱が困ろうがどう思おうが、今は気にしていられない。

 なけなしの勇気が萎んでしまう前に、言い切りたい。


「私の初恋ね、壱だったんだよ」


 壱は固まっている。

 迷惑そうには見えないから、少しだけ安心する。


「ばいばい、壱」


 これ以上、困惑している壱を見ていたくなくて、私はその場から逃げ出した。


 校舎を駆け足に出ると、深優の背中を見つけた。


 声もかけずに深優の背中に抱きついたから、深優は悲鳴を上げる。


「由依……?」


 深優の顔を見ると泣いてしまいそうで、深優の背中に顔を埋める。


 すると、深優の暖かい手が、頭に置かれた。


「どうしたの?」
「……壱に、言っちゃった」


 声が震えていた。

 緊張の糸が今さら切れて、思いが溢れる。


 十年の長い片想いに区切りがついて安心しているのか、こんな終止符で悲しんでいるのかはわからなかった。


 とにかく、自分でも理解できない涙を、声を殺して流し続けていた。





 翌朝、私の目は思っていたよりも腫れなかった。

 深優が必死に手当してくれたおかげだろう。


 思う存分泣いたこともあって、気持ちは軽かった。
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