【短編集】片想い、余命2日
「おはよ」


 玄関を出た瞬間に、壱の顔を見ることさえなければ。


 どうして壱がここに?

 いや、私は幻を見たのだ。


 そう思ってドアを閉めて、改めて開けると、やっぱり壱はいた。


「なんで閉めるんだよ」


 私がまた閉めてしまわないように、壱はドアを掴んだ。


「いやー……なんとなく?」


 苦笑して答えるけど、内心は穏やかではなかった。


 むしろ、私が聞きたい。


 なんで壱は、いつも通りなの?

 まるで、私の告白はなかったみたい。


 いや、なかったことにされたから、壱は変わらないのだ。


 本当、壱は私の傷を深くしていくのが上手い。


 ううん、違う。

 今まで行動しなくて、過去の話にしたのは、私だ。

 壱を責めるのは、間違っている。


「久しぶりに一緒に行こうぜ」


 でも、ここまで普通にされるのは、さすがに傷つく。


「……やっぱり、無理だよ」


 上手く断ることはできなさそうで、壱の隣に立とうと思ったけど、感情が追いつかなかった。


「壱は私に好きって言われてもなんともないのかもしれないけど、そうやってなにも気にしてないみたいな態度されると、私の気持ちが無視されたみたいで、しんどい」
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