【短編集】片想い、余命2日
 なんて自分勝手なセリフなんだろう。

 八つ当たりもいいところ。


 これ以上、壱と話していたら自分のことが嫌いになりそうで、私はその場から逃げることにした。


 でも、壱はそれをさせてくれなかった。


 壱の横を通ったと思ったら、手首を掴まれた。


「無視なんかしてない」


 その眼差しは真剣そのもので、私は反論するタイミングを逃してしまった。


「てか、勝手に終わらせんなよ」
「……離して」


 壱の纏う空気が怖くて、私は壱の手から逃げようとする。


 自分の力では抜け出せなかったけど、壱が離してくれたから、私は自由になる。


「とりあえず、行こうぜ。遅刻する」


 壱が歩き出して、私は半歩後ろを歩く。


「……なあ、由依。あれって、過去の話、なのか?」


 壱は私を見ない。


 長いこと壱といるけれど、こんな空気感は初めてで、どんな言葉を紡げばいいのか、わからなくなる。


「……うん……過去、かな」


 お互い、視線を交えて話さない。


 だから、私が気持ちを押し殺している顔をしていることに、きっと壱は気付いていない。


「じゃあ、俺はなにも答えないほうがいい? いやでも、無視はしてほしくないんだっけ……難しいな」
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