【短編集】片想い、余命2日
 亜子は顔を顰める。


 その眉間に寄った皺を見て、嫌がらせのメッセージでも届いたのか心配になり、綾芽はスマホを覗き込む。


「壱先輩からじゃん。行かないの?」
「……行きません」


 亜子は、駒扱いされることが気に入らなかった。


 そして亜子は歩き出すが、綾芽はあることに気付いた。


「亜子、行くよ」


 綾芽は亜子の腕を引いて、廊下を走る。


「綾芽ちゃん、私、行きたくないです」


 抵抗しても、亜子は逃げられない。


 体育館に近付くにつれて、人が増えていく。

 さすがに走れなくなり、綾芽は亜子の手をしっかりと握って、人の迷路を通り抜けていく。


「ここにいるんだよね?」
「颯斗、見えるかなあ」
「やばい、同じ空間にいるかもってだけで無理」


 周りの声で、亜子はアイドルが近くにいることを察した。


 どんどん作られた隙間は狭くなっていき、亜子と綾芽の手は離れてしまう。


 亜子は、チャンスだと思った。


 再び綾芽に捕まってしまう前に、逃げ出してしまおう。


 そう思って、亜子は必死に人混みから抜け出した。


 まっすぐ行っては見つかるだろうから、体育館裏に向かう。


 そこには、壱と由依、そして、今朝綾芽に見せてもらったアイドルの姿があった。
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