【短編集】片想い、余命2日
 こんなにもはっきりと“しまった”と思ったのは、初めてだった。


 逃げようにも、壱としっかりと目が合ってしまい、不可能。


「亜子」


 名を呼ばれ、手招きされる。


 亜子はとぼとぼと、壱の元に向かう。


「よく俺たちがここにいるってわかったな」
「……偶然だよ」


 それを物語るには十分すぎるほど、亜子は頬を膨らませる。


「ごめんね、亜子ちゃん。私が無理って言ったから……」


 由依が謝ったことで、亜子は不満そうな顔を止める。


「無理って、なんのことです?」
「学校でかなり話題になってるはずなのに、知らないのかよ。俺ら、アイドル様のミュージックビデオに出ることになったんだよ」


 亜子の興味のなさそうな顔が、相槌を打つ。


 壱は亜子のその態度が気に入らず、喧嘩でも始まりそうな雰囲気が漂う。


「俺から説明させてもらうね」


 そこで颯斗が会話に入ったことで、喧嘩に発展はしなかった。


 亜子は颯斗の顔をしっかりと見る。

 しかしほぼ無反応と取れるその表情に、颯斗は驚く。


「俺を見て平気な人、初めて見たよ。君、亜子ちゃんだっけ? 仲良くしない?」


 颯斗は流れるように、亜子の手を取る。


 すると、秋良はその颯斗の手首を強く握った。

 痛みで颯斗は顔を顰める。
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