【短編集】片想い、余命2日



 撮影の休憩中、亜子は洸の姿を探して、校内を歩く。

 その手には、昨日の夜に作ったクッキーがある。


 もともと、渡すつもりなんてなかったけれど、話すきっかけになるかもしれないと思って、亜子は渡したくなったのだ。


「ねえ」


 すると背後から誰かに呼び止められた。


 振り向くと、複数人の女子が亜子を睨みつけている。


「どうして片倉さんが、洸の相手役なわけ?」
「壱先輩とその彼女がミュージックビデオに出るはずだったのに」
「壱先輩の妹だから、わがまま言ったとか?」
「ねえ、ズルくない?」


 亜子が口を挟む隙を与えてくれなかった。


 亜子は反論することもできず、ただ戸惑う。


 そのおどおどとした態度が、彼女たちに火をつけてしまう。

 亜子への憎悪が、止まらなくなる。


「……それ、洸に渡すつもり?」


 一人が、亜子のクッキーに気付いた。


 亜子は背に隠すけど、無意味で、取り上げられてしまった。


「返してください」


 亜子が手を伸ばすが、当然、亜子の手には戻ってこない。


「こんなので洸の気を引こうとか、本当、最低」


 女子の手から、クッキーが落ちる。


 それだけで割れてしまったのに、容赦なく、クッキーは踏み潰された。
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