【短編集】片想い、余命2日
 亜子は言葉を失う。


「壱先輩の妹で颯斗に気に入られたからって、調子乗らないで」


 そこまで言って満足したのか、彼女たちは去っていく。


 亜子は粉々になったクッキーを見て、しゃがみ込む。

 手を伸ばす途中、視界が滲む。


 洸に渡せなくなってショックなのではなく、大事に作ったものが容赦なく壊され、その悲しみに飲み込まれる。


「これ、僕の?」


 亜子を闇から掬ったのは、洸の声だった。


 洸は亜子の手が届く前に、クッキーを拾う。

 洸は少し不思議そうにクッキーを見ている。


 亜子は慌てて涙を隠して笑った。


「そのつもりだったのですけど、ダメになっちゃったので、また作ってきます」


 亜子が引き取ろうとすると、洸は手を引いて、亜子からクッキーを離す。


 洸の行動心理が読めなくて、亜子は首を傾げる。


「どうしました?」
「……いや……また新たに作るのは大変だろうから……これでいいよ」
「でも」


 それでも亜子は引き取ろうと手を伸ばすけど、洸も負けじと立ち上がって逃げる。


「大変なんかじゃないです。貰うなら、自信作もらってほしいです」
「……じゃあ、明日。楽しみにしてる」


 洸は亜子の手にクッキーを乗せた。


 亜子は満面の笑みを見せる。


「任せてください。美味しいお菓子、作りますね」


 亜子の言葉に洸も笑顔を返す。


 その平和で穏やかな雰囲気を遠目から見ている人物がいたが、二人はそれに気付いていかなかった。
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