【短編集】片想い、余命2日



「みーちゃった」


 洸が控え室に戻っていると、颯斗の悪い声が洸を呼び止めた。


 洸は面倒そうにため息をつき、歩き出す。


 颯斗はニヤニヤしながら、洸の肩を組んだ。


 洸はその距離感と歩きにくさから、顔をしかめる。


「洸が差し入れを受け取るとはね」


 洸は基本、ファンからも共演者からも、手作り品は受け取らないようにしている。


 それでも、亜子からクッキーを貰いたかったのは。


「……あの子は特別だから」


 ますます颯斗にからかわれるとわかっていても、洸はそう言い切った。


 颯斗は堂々と言われ、反応に戸惑う。


「まさか、疑似恋愛体験をして、好きになったとは言わないよな?」


 どこから聞いていたのか、島崎が後ろから声をかけた。


「言わないよ」


 安心してため息をつく。


「だって、僕があの子を特別だと思ったのは、半年くらい前からだから」


 そしてすぐに、その安心をぶち壊した。


 衝撃を受けたのは島崎だけでなく、颯斗もだった。


「恋とかわかんないって言ったのは嘘か」
「ウソじゃない。あの子のクッキーなら食べれるかもって思っただけ」
「てか、洸、亜子ちゃんと知り合いだったの?」
「顔はよく覚えてなかったからすぐにわからなかったけど、たぶん」
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