【短編集】片想い、余命2日
 洸は亜子から死守したクッキーに視線を移す。

 島崎と颯斗はどうして洸がそれを見たのかわからなかったが、すぐになにかに気付いた。


 島崎はますます頭を抱えるが、颯斗はテンションがあがっていた。


「亜子ちゃんって、あの、通りすがりにお菓子をくれた子だったんだ?」
「たぶんね。あのときと同じラッピングだってだけだし、絶対にそうだとは言えない」


 それでも洸は、内心では亜子がそのときの子だったらいいのにと思っていた。





 半年前の夜、洸は誰もいない公園にいた。

 一人で滑り台に登り、小さな星たちを見上げていた。


 少しずつ周りに注目されるようになって、ファンから求められる自分とやりたいことの差に苛立ち、アイドルという仕事を辞めようと思っていた時期だった。


「大丈夫ですか?」


 ふと、下から女の子の声がして、洸は慌ててフードを被った。

 夜で顔は見えにくいとしても、自分が冬瀬洸であるとバレると面倒なことになると思ってのことだった。


「あの、見ず知らずの私のを受け取ってもらえるとは思えないのですが、クッキー、食べませんか? きっと、悲しいことなんて忘れて、笑顔になれますよ」


 亜子は洸が泣いていると思ったらしい。


 洸に向けて手を伸ばし、優しく微笑んでいる。
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